個人部門グランプリ
照瀬 登志子 さん

八十一歳になる今では車いす生活の母と妹と私で日奈久温泉駅から出水駅まで肥薩おれんじ鉄道のスイーツ列車の旅をしました。この地は父と母が出逢ったところです。両親が結婚して娘三人が生まれましたが、父と姉が若くして他界し、生前に家族五人で旅行をしたことがなく、やっと夢がかないました。その日は幸運なことに私達のみの貸切列車となり、テーブルの上に父と姉の写真を置き、家族五人で美味しいスイーツのコースを頂きながら、幸せに満ち溢れたひとときを過ごすことができました。

スタッフの方のおもてなしや各駅のホームからお土産を渡してくださる地の方の温かい笑顔に感動しました。また、車内ではギタリストの方が父と母の想い出の曲を弾いて下さり、もうすぐ終点の出水駅に着くという頃、まだリクエストしていない一番母が聞きたがっていた「大利根月夜」の曲を自然と弾いて下さり、流れてくる音色に私達三人は、きっと父と姉がプレゼントしてくれたと感じました。日奈久までは田浦駅から鈍行列車で風光明媚な区間を満喫しました。車窓の左に不知火海が見え、右手すぐの斜面にはミカン畑が連なり、その先には小説の「伊豆の踊子」を思わせる苔むした風情あるトンネルをいくつか通り抜けると日奈久温泉駅です。駅舎は昭和の面影を残し、地元の親切なおばちゃんが駅員をされ、改札や切符を売ってあるアットホームな駅です。日奈久は海に面した小さな温泉街ですが、いにしえより続く由緒ある相撲神社があり、江戸時代に作られた二千人程入る意思でできたいくつもの桟敷が今も使われています。昔から「誰もが羨む日奈久温泉」と呼ばれ、優雅を誇ったところです。今ではひなびた温泉街になっていますが、町のあちらこちらに情緒ある路地があり、昔ながらの建物がなんともいい感じに残っていて、幾度も訪れたくなるところです。

おかげさまでスイーツ列車の旅は熊本の方の人情と温かさに包まれ最高の旅となりました。